昨日の夕方、吹雪の中を仕事に出かけた。
傘を持ち歩くのが嫌いなわたしは、そのときも帽子だけ被って外に出たのだけど、
すぐに傘が無いことを後悔した。
駅までの15分間、ずっと向かい風。顔に当たる雪が痛い。すぐにまつ毛と前髪が凍った。
すでに30cmほど積もった雪で、足元がおぼつかない。何度かよろける。
呼吸が荒くなり、マイナスの気温の中、軽く汗ばむ。
自然の猛威に悪態をつきながら、サン-テグジュペリの「人間の土地」を思い出した。
サン-テグジュペリは「星の王子さま」の作者で有名だが、他にも
「夜間飛行」や「人間の土地」という人生の示唆に富んだ小説を書いている。
「人間の土地」は作者の飛行士としての15年間の経験を基に書かれたエッセイ集で、
同じ郵便飛行機乗りの僚友ギヨメに捧げられている。
そのギヨメが、アンデス越えの郵便飛行に従事してる最中、悪天候で山中に不時着。
皆がもう諦めた頃に奇跡的に生還したエピソードを思い出したのだ。
雪の中では自己保存の本能がまったく失われてしまう。
二日三日四日と歩きつづけていると、人はただもう睡眠だけしか望まなくなる。
ぼくも眠りたかった。
だがぼくは、自分に言い聞かせた、ぼくの妻がもし、ぼくがまだ生きているものだと思っているとしたら、必ず、ぼくが歩いていると信じているに相違いない。
ぼくの僚友たちも、ぼくが歩いていると信じている。
みんながぼくを信頼していてくれるのだ。
それなのに歩いていなかったりしたら、ぼくは意気地なしだということになる
(訳/堀口大學氏)
ギヨメは、7500mの高度、氷点下45度の気温の中、食料もなく、雪の中を5日間眠らず止まることもな
く歩き通してきたのだ。
そのような極限状態では、立ち止まって眠る、すなわち、死を選ぶことのほうが、どんなにた易かっただろう。
く歩き通してきたのだ。
そのような極限状態では、立ち止まって眠る、すなわち、死を選ぶことのほうが、どんなにた易かっただろう。
その誘惑を断ち切って、困難な選択をしたのは、ただただ、妻や僚友への信頼だったのだ。
ああ、以上の文章をフランス語に訳せるのだろうか、
ちょっと自信がないので、「人間の土地」からの名文をひとつ。
Aimer ce n’est point nous regarder l’un l’autre mais regarder ensemble dans la même direction.
愛するということは、互いに見つめ合うことではなく、
互いに同じ方向を見つめるものだ。
サン-テグジュペリ自身は、1944年、44歳のとき、コルシカ島を偵察飛行中に消息を絶っている。
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